時は戦国時代の戦(いくさ)から近代における戦争まで、その中の『情報』というものの重要さを今更語る必要は無いだろう。
戦い―――勝敗がある事象においても同様、噂話程度の情報から国家機密レベルの情報まで【情報を制する者は世界を・・・】という言葉も存在するほどである。
受験、仕事、就職、恋愛・・・・これらも例外ではない。
曰く、お前が誰かを傷つけたって噂が広まっているらしいぞ……
親しい友人からのこんな些細な噂程度の情報でも爆弾が付き、それを放っておいて爆発すると周囲の女性の評判が一気に下がる……などというデータもある。
曰く、友達とかに噂されたら恥ずかしいし……
憧れている幼馴染からこんなセリフを吐かれて一緒の下校を断わられた経験がある方も多いだろう……と思う。
その後、掌を返したように誘ってくる幼馴染に対して憧れが薄れるのも又、経験なのだが。
とりあえず口コミを噂話とイコールとし、それらの情報を自由に操る術(すべ)をもつ者がいたとするならば……その者に手に入らない物はないだろう。
手に入らない物はないだろう。
それは一通の手紙から始まって……
7日目 運命の選択?
人は生きていく中で様々な選択を迫られる。
例えば、『朝起きて着替えて学校に行く』という何でもない行動の中に『朝は何時に起きる』『朝食は何を食べる』『通学には何を使うのか』などの様々な選択肢があり、その中で何を選ぶかで後々結果が変わってくるものだ。
寝坊する、昼食前にお腹が減る、遅刻するetc……。
まあ、こんな些細な選択ならばそれほど大した事ないだろう。
ならば些細ではない選択……これが目の前にあるとしたら?
例えば……
目の前で女が絡まれている。
1、助ける
2、見てみぬふり
そんな事が頭に浮かんできたわけだが……実際目の前で絡まれている。
いささかたちの悪いナンパというやつだろう。
男二人で嫌がっている女一人を無理やりナンパ……男の風上にも置けない奴らめ。
義憤にかられる太郎……まあ、12股を小学校4年生の頃からかけ始めている男に比べれば、まだかわいいものであることは間違いない。
おそらく男二人も太郎には言われたくないだろう。
とりあえずトラックの運転手にここまで運んでもらったのだが降り際に、
北海道……北は【試される大地】と呼ばれている。兄ちゃんも何かを試されるのかもしれねえな……
そう、告げられた。
何故運転手が北海道のキャッチコピーを知っているのかは分からなかったが、その言葉には何かの重み―――真実味があった。
まるで何かの予言のように透き通った言葉は俺に染み渡っていった。
あの時の言葉が甦ってきた……いや、忘れる事はなかった言葉の意味を分かり始めてきた。
俺は今、確かに試されているのかもしれない。
男としての、人としての度量、優しさや強さってやつを。
目の前の女を助けるか否か。
この選択が俺の何かを変える気がした―――生き方や将来?それとも過去?
俺は目の前の女を……
「あっ、太郎君!! もうっ!! 遅いじゃない!」
……それを選ぶ前にいきなり女と目が合い声を掛けられた。
何故、俺の名前を知っている?
いや、なぜか彼女をみると恐怖が……
「ちっ……なんだよ……男がいたのかよ」
何故か震えだす俺を気にせずに、女に声を掛けていたていた男達は女の様子を見て勝手に判断したようで俺をギロリと睨む。
「おっ、俺は無関「婚約者だもんね! ふふっ!!」
ギュっ!!
『俺は無関係ですから帰らしてください』という俺の言葉に遮るように重ねるようにして発させられた女の声と俺の右腕にぶら下がるように組んできた女の感触は、俺の封印された……というより思い出したくなかった記憶の少女を急速に形作り始めて―――――
「それに互いに全てを見せ合う仲なんだからっ!!」
―――――――畳み掛けるような言葉にその記憶の形が鮮明に、明確に、正確に、確実に甦りだした。
神は死んだ……
そんな言葉と供に。
「そ、そうなんだ……じゃあ、俺たちはこれで」
おそらくは青くなっているだろう俺の顔に哀れみの目を向けて男二人は歩き出した。
ヒソヒソと男二人どころか周囲の人間がこちらを見ながら話している様は、中々よろしくないものであるのだが、その内容が『あの高校生みたいな年齢で……』とか『ふしだらでみだらで……』とか『青少年保護育成条例は……』とか『ひどい男ねぇ、責任とるのかしら……』などというものなら尚更血の気が引いていくのがわかる。
異議ありと叫びだしたいところなのだが。
「あっ、ありがとう!! 助けてくれて……」
輝くような笑顔で言われたお礼は新たな恐怖を呼び起こすだけであり。
ビンビンと嫌な予感が漂ってくるというより目の前にある。
「ま、まさか……沢渡ほのか?」
恐怖と焦りを張り付かせた問いかけは……
「うん!! 太郎君の婚約者(フィアンセ)の沢渡ほのか!!」
とびっきりの笑顔で返された。
沢渡ほのかの潜在スキル『情報操作』は益々磨きがかかり、健在であった。
想い出される遠い記憶――――クラスの担任を抱きこんだ席替えは常に彼女と隣同士を強要され、家庭訪問では担任と母親から『不純異性交遊と将来』について2時間以上も説かれ、クラス……いや、学校中の噂に乗せられた男子からはやきもちと羨望からの軽度のいじめを受け、ストレスから3キロほど痩せた。
それは交換日記に『僕は平穏に暮らしたい……』と書くのも無理はないだろう。
周囲から冷たく苛められ(いじめ)るようにしむけ、特定の人物(ほのか)からのみ優しくされる……これはその特定の人物(ほのか)の評価を上げるのにはもってこいの環境―――『情報操作』のスキルをもつ人間なら造作もないこと。
いわゆる、やくざの常套手段のような方法で太郎の心を向けさせるのは間近というところまで行ったのだが、ほのかにとって一つ……いや、二つ誤算があった。
一つは太郎の潜在スキル。
ははは……という乾いた笑いを張り付かせた太郎に最早、低レベルの苛めなど通用せず、追い詰められるところまでいかなかったこと。
二つ目は太郎の引越し。
もう少しで包囲網を敷けるという寸前で太郎が学校を去ったのである。
太郎にとっては救われたというべきか。
「さっ、行きましょう!!」
そう言って腕を組んだまま歩き出すほのか。
「ちょっ!! ちょっとほのか行くってどこに!?」
「え?何を言ってるの? 今日パパに会ってくれるって言ってたじゃない」
『きょとん』という擬音が付きそうなほどに邪気のない瞳で意味のわからない……というより俺の記憶にないことを言った。
その小首を傾げるかわいさは、彼女を知らない人間には効果は絶大だろう。逆に俺には恐怖を与える効果が絶大である。
「待てぃ!ほのかの父親に会う事も言った憶えはないし、それ以前にあれ以来会った事もないだろうっっ!! というよりなんでここにいる!?」
『情報操作』の上位スキル『捏造(ねつぞう)』が発動する寸前に今までの疑問、いや、突込みをする。
「そんな言い方ないんじゃない? 折角待ってたのに……それにあなたは会ってなくても私は―――――」
どこかで見てたんかいっっ!!!?
言い淀み、頬を赤く染める様は非常に微笑ましく、かわいいものなのだがその口から出た言葉は非常にかわいくないものである。
「もうっ!! そんなことはいいから早く行こう!(逝こう?)」
ピコ〜ン!!(何かを閃く音)
「ごっ、ごめんほのか!! また今度っ!!」
手を振り解き回れ右をしてダッシュ。
潜在スキル『とんずら』を会得した。
太郎は逃げ出した……。
そんな言葉を思い出しながら走り出す。
俺は『逃げる』を選択した……というより生物がもつ基本的な感情の恐怖というものが俺の足を動かした。
こいつはヤバイ……と。
「あら……どこ行くの?」
いきなり目の前にほのかが現れ、再度俺の腕を掴む。
太郎は回りこまれた……。
その後、ほのかの父親(情報操作済み)の前に連れて行かれ、ほのかの父親の大学(父親は教授です)への推薦入学を推薦……いや、強要されて太郎の高校のクラス担任に推薦書類が届けられたのは言うまでもないだろう。
ちゃっちゃらちゃっちゃっちゃ〜!!(何かのファンファーレ)
太郎はスキル『とんずら』を会得した。
ほのかと再会した。
北海道大学の推薦書類を手に入れた。