――――人生を道に例える人がいる

その道で何を見つけるのだろうか…


――――人生を旅に例える人がいる

その旅で何を知るのだろうか…


そして俺は何を見つけ、何を知るのだろうか・・・


それは一通の手紙から始まって  

3日目  変わらぬ故郷と変わらぬ幼馴染


 春の季節の青森―――まだどこかに肌寒さを残す陽気、けれどそこに春があることを確かな空気が感じさせる…暖かで、柔らかな日差し。

 トラックの運転手に礼を言い、その地に降り立った俺は今、静かに歩いている。
 幼き日に歩いた故郷の道を。

 『兄ちゃんの探し物がその旅で見つかるといいなっ!!頑張れよっ!!』 

降り際のトラックの運転手の言葉が、俺の背中を押した。
ストーカーを見つける?…命に関るのかもしれないのだから当たり前だ。

 遠い記憶を刺激する風景――懐かしさを覚えるのも不思議な事ではない。
 あの時は慌しく去っていく事しか出来なかったけれど、小学4年まで過ごしたその土地は『故郷』といっても差し支えないのかもしれない。
 過去に一番長く過ごした『故郷』は、現在(いま)の俺に寂しさと懐かしさを等しく与える存在だった。

 帰ってきたんだ…と小さな呟きが風に流れていった。



『万物に不変な物は存在しない』


 それは一つの真理だろう。
 ここも例外ではない。
 少年時代におつかいに来たタバコ屋がコンビニに変わり、走り回った空き地はマンションが建設されている。

 その何かが失われていく―――変わっていく様を一つの事実として認識している事に寂しさを覚えるのは人の心の『感傷』というもの。
 そしてそれをありのまま受け入れても悲しみが浮かばないのは『何かを失っていくことで成長する』ということを解かりかけていたからかもしれない。


 けれどそこには確かに変わらないモノも存在していて…

 遠い空、雄大な雲、そして……彼女の家。

 『安達酒店』という幼き頃からの付き合いの看板は変わらぬ姿で俺を迎えてくれた。
 そしてその家も。
 その事に不思議な安堵感を覚えた俺は玄関の前に立ち、その家を見上げた。
 変わらぬ空、変わらぬ日差し、変わらぬ家・・・・まるであの頃に戻った様でいて――――


 すぅぅ…ふぅぅぅ…


――――深く、一度だけ深呼吸をした。
 自分を落ち着かせるように、深く、一度だけ。
 あの日の空気を思い出すように、記憶の中から呼び起こすように。


 安達酒店…ここの2階部分が山田家が間借りしていた部屋だった。

 昔と変わらない手動の引き戸を開けて、中に入ろうとした俺を―――――


 ドン!!


――――誰かがぶつかる衝撃が止めた。


「あっ!?すいませ「きゃッ!?ごめんなさい!!えっ!?まさか太郎!?どうしたの!帰ってきたのね!!もう、こんなに妻を待たせるなんて旦那様失格だぞっ?私なんてあなたのために料理の腕を磨いてきたんだからねっ!!料理どころか身も心も――――キャッ!!」


変わらぬ幼馴染がそこにいた。

「おかえりなさい…太郎」

マシンガンのような勢いでぶつけられた言葉の後の、静かな、微かな、呟くような、呟きのような言葉には――――

「ただいま………妙子」

――――俺も同じように、静かなモノで返す事しか出来なくて……
妙子の抱きつくように首に回された腕と、その温もりが…帰ってきた事を意味していた。


「じゃあ・・・・さっそく今日は泊まっていくんでしょ!?家も今日はお父さんもお母さんもいないし弟はいるけど外で寝させるから問題なし!!だから離れてた分の時間を取り戻すためには同じ時間を過ごす事が一番いいからご飯もお風呂も寝るのも・・・・イヤンイヤン!!!」

……帰ってきた事を意味していた。

「あ、あの妙子…トリップ中のところ悪いんだけど訊きたい事があるんだ」

「それで朝同じ布団で目覚めて・・・って何?太郎」

 まず訊かねばなるまい……そのためにここに来たのだから。
 危ういところで自動的に発動しそうになる『現実逃避』無理やり押さえ込む。


「妙子……最近東京に来た?いや、妙子って俺の家の住所知ってたっけ?」

「っ!?知らないよ・・・大体太郎が引っ越して以来会ってないじゃない」

 !?…なんだ今の間は。
 何かを隠してる……いや、嘘をついている?


「そうだったな…ごめん、変な事訊いて」

「いいよ…さっ!早く家に入ってよね。今すぐにご飯の支度するから。」

 まだ、深追いは出来ない…か。
 まあ、いい。
 今日の処は顔見せ……灰色だということがわかっただけでも来た意味があった。

「ご飯の後は・・・・イヤンイヤン!!!」

……意味があった。


 この後、太郎は夕飯をご馳走になったがお泊りは免れた。

「また今度改めてゆっくり泊まらせてもらう」という言葉・・・潜在スキル『その場しのぎの先送り』を発動した結果である。

 このスキルはその場は凌げるが、後に大きな問題となって降り掛かるというそれ自体の解決にはならないスキルであり、太郎が以前に習得したもので太郎の窮地を幾度も救い……いや、窮地を幾度も先送りにしてきた技―――幾度も先送りにしてきたツケが廻ってくる時は近づいてきているのだが、利息はおそらく莫大なものになっているのは想像に難しくないだろう。

 現に標的には「もう・・・今度ゆっくり私を味わうだなんて太郎ったら・・・イヤン!!」などという反応を与え、次回この地を訪れた時の光景が目に見える・・・いや、ツケが廻ってくるという事実とその時の状況を容易に予想できる効果をもたらしていた。

 まるで破裂寸前の風船を見ているような。
 実際2ヵ月後に再度訪れた時には・・・・・・・

 そして妙子の弟の純(じゅん)のもつスキル…『哀れみの目』は衰えてはいなかった。

「兄ちゃん・・・いや、義兄ちゃん・・・・・・」

その言葉が俺の行き着く先を暗示している様に思えて…


チャッチャラチャッチャッチャ―――――!!(何かのファンファーレ)

太郎は新たなスキル『嫌な予感』を習得した。
スキル『その場しのぎの先送り』のランクが上がった!!
運の良さが下がった!!

 

 

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